前回、指導教授と日本語でコミュニュケーションをとるのが難しく、ひどい場合には険悪な仲になってしまう留学生もいる、という話をしました。
これ、本当に深刻な問題だと思います。
もちろん、留学生の日本語力が不足しているという問題もあるとは思うのですが、日本人の教員側に留学生が話す日本語に対する理解が不足しているという問題もあると思います。
私も、受講生がよく
「大下先生は〇〇と言っていました」
と言うので、一々カチン、カチンときていました。
この表現の何がいけないのか、分かりますか?
敬語の問題ではありません。
「大下先生は〇〇とおっしゃっていました」
これでもカチンときます。
何がいけないのでしょうか?
日本人は、相手に対して
「(先生は)〇〇と言っていました」
とは普通言いません。
「(先生は)〇〇と言っていましたが…」
「(先生は)〇〇と言っていたと思うのですが・・・」
と言います。
書き言葉の場合、
「(先生は)〇〇と言っていたと記憶しています」
「(先生は)〇〇と言っていたと記憶しているのですが・・・」
と書きます。
「〇〇と言っていました」
という表現をつかうのは、
「あなたは間違いなくそう言った。
これは動かせない事実だ」
と断言し、相手を詰問する時です。
だから、
「〇〇と言っていました」
と言われると、カチンとくるんですね。
私も最初は我慢していたんですが、受講生のメールを添削している時に気付きました。
受講生は、メールの中で、
「先生は〇〇と言っていました」
と書いていたのです。
その時気付きました。
「ああ、この受講生は、大学の先生に対しても同じような表現をしていたんだ。
表現方法が分からないだけだったんだ」
私もその時初めて気付き、受講生に伝えました。
私の説明を聞いて受講生は、
「えっ、知りませんでした!
私の日本語、そんな風に聞こえていたんですか?」
と、とても驚いた様子でした。
「教えてくださり、ありがとうございます」
とも。
本当に良かったです。
私は日本語教育の専門的な知識を持っていますので、留学生が話す日本語の問題にも敏感です。
しかし一般的な大学の先生は、おそらくそのような知識はないと思いますし、留学生とのコミュニケーションの取り方に関する研修なども受けていないと思います。
大学院生レベルになると、本当に流暢な日本語で、ネイティブの学生と遜色ないほどの日本語を話す留学生もいます。
ですから日本人の教員からすると、
「この留学生は、わざと失礼な言い方をしているに違いない」
と感じてしまうかもしれません。
こんなことが原因で留学生と日本人教員の間で摩擦が生じているとしたら、本当に残念なことです。
今回論じたのは、日本語文法の問題ではなく、日本語によるコミュニケーション方法に対する理解の問題。
知らずに損をしている留学生、実は多いのではないかと思います。
留学生の皆さん、指導教授や研究室の仲間とうまくコミュニケーションを取れていますか?
不安に感じた方は、お気軽にご相談ください。